23.文化祭【2/24】NEW≪イチ≫↓ひと悶着あった修学旅行も無事に終わり、北高は一気に文化祭へと色替えをしていた。校内も生徒も揃って、お祭り気分である。ガヤガヤと、音に雰囲気に 色が咲いていく。それは校舎中全体に、そして2-Eにも。 「いらっしゃいませー」 「ご注文はお決まりですかー?」 「3番テーブル2名様でーす」 「ありがとうございましたー」 忙しく立ち回るクラスメイトたち。いつもとは違う装飾を施された教室内では、ひっきりなしに連絡を取り合う声が響き渡っている。教室内は人で溢れかえり、対処もままならない状況ではあるが 年に一度の文化祭ということもあり、全員忙しくとも活き活きとしている。 「こんなに盛況になるとは、思わなかったな……」 裏との境界線にもなっているカーテン近くに立ち、優雅は騒然としている教室を見遣る。忙しく立ち回るクラスメイトとしては 「お前も働け!」と言いたいだろう。そんな優雅の格好は、白シャツに黒ズボン、腰には黒のソムリエサロンを巻いている。髪型もいつもとはちょっと変えて 教室の装いに合わせている。 「もーぅ、そんな所に突っ立ってたら邪魔だよ? 優ちゃん! ほら、忙しいんだから動いて動いて働いて!!」 そうして優雅を追い立てたのは恋人でもある椿だ。 椿の服装もやはりいつもの制服姿でなく白シャツに黒のヒラスカート、首元には赤のスカーフタイが巻かれている。 「ああ、うん。それにしても凄いお客の数」 英国のお茶会をモチーフにしたカフェは、2‐Eの生徒の予想を遥かに上回って大盛況だ。 「今回に至っては、鈴ちゃんの手腕と総ちゃんの人脈の広さに感謝ね。じゃないとこんなに本格的には出来なかったわよね」 手に持っているトレイを見て、椿が呟く。そこにのっているのは、客から注文を受けたフォンダンショコラと、アールグレイの紅茶。どちらも、とても美味しそうだ。 【文化祭とはいえ、本格的な喫茶店を!】といつになく、2-Eは盛り上がっていた。 それというのも、また例によって例の『校長気まぐれファイル』が登場したからである。しかも、ご丁寧に『文化祭ver』とまで、書かれていた。 「今度は、どんな内容なのさ?」 あまり気乗りしない様子で、茜は尋ねる。『気まぐれファイル』にいい思い出がないからだ。 「まず、各クラス一人ずつ この投票用紙が配られます」 そういって鈴菜は、渋緑と臙脂色に縁取られた掌サイズの紙を前から順に配っていく。 「それに気に入ったクラスの出展作品を書き、投票してもらいます。その投票結果で一番多かったクラスは優勝賞品として、冬休みの宿題が免除になります」 ぴくりと、生徒の耳が鈴菜の言葉に反応した。 「「「「「「「「「「「宿題が免除!!!!?」」」」」」」」」」」 その言葉に、一際喰いついたのは 言わずもがな茜だ。 「鈴菜! それ、マジ!? マジ話っっ!!?」 「嘘は言わないわよ、私は」 勢いのあまり、机を飛び越え教卓にまで乗り出してきた茜に対し、鈴菜はさらっと答える。 さりげに興奮している茜との間に、ファイルを挟んで微妙に距離を保っている。 「ふ、ふふふ……」 「はいはーい、鈴菜しゃん。質問でーす!」 「はい、ナンでしょう深見くん」 妖しい笑いをしだした茜を無視して、優雅は優等生風に挙手をし 鈴菜が教師のように指した。 「投票制ってことは、自分のクラスに票を入れて票数を稼いだり、わざと提出しなかったりして妨害する人もでるんじゃないですかー?」 優雅の言葉に、クラス一同が確かに……と、頷く。 しかし、そんなクラスメイト達に対し鈴菜は不適な笑みを浮かべて言った。 「アラ、その点は抜かりないわよ」 「鈴菜ちゃん、それはどういう事?」 「まず、今配った用紙。縁に渋緑と臙脂の色が塗られているでしょう? それは、『2-E』のクラス色なの。各学年、クラスごとに色は全部、バラバラになっているわ。これで、どこのクラスがそのクラスの出展作品に投票したのか分かるって寸法。つまり、自分のクラスに票を入れたら一発で分かって、その票は無効になります。そして当日は点呼を朝・昼の2回するから、クラス人数分の票数がはっきり分かる。だから、休んでいる人の分の票もー。っていう考えは、使えないわ。」 「ぬ、抜かりない……さすが、生徒会。侮れませんね」 「さすが、遠海会長」 うぬぬ……、と生徒会の抜かりのなさを嘆く。本当に、こういう事に関しては徹底しているのが凄いと感心してしまう。一つ一つ、手間が掛かっただろうに。 どこか遠くのほうから、遠海会長の高笑いが聞こえてきそうだ。 「ぃよーォしっっ!! 燃えるわ、燃えてきたわっっ!! 絶対、1位獲って冬休みを満喫してやるのよっ! やるわよ、野郎共っっっ!!!!」 先程まで妖しい笑いをしていた茜が、勢いよく教壇に足を乗せ高らかに宣言をする。言葉のとおり、なんだか目に炎が宿っているように見える。 そんな茜の様子に、最初はポカーンとしていたクラスメイトたちも 茜の言葉に闘争心に火がついたようだ。 「やるぞー!」「おーっっ!!」や「他のクラスに負けんなーっっ!」「おーっっ!!」などの、掛け声をしきりに繰り返している。 そんなクラスメイトたちに、冷静な切り込みを入れたのは、今まで我関せずだった男だ。 「んで?出展物は何にすんだよ?」 総司の現実的な言葉に、クラスメイトは我に返る。まずは、出展物から考えなくては何も始まらない。 お化け屋敷、巨大迷路、喫茶店、……クラス全員でウンウン唸っているが、なかなか良い案が出てこない。 「喫茶店……てのは良いと思うんだけど、もうちょっと捻りが欲しいわね」 「茶店とか?」 「茶店は、茶道部がやるでしょ毎年」 「じゃぁ、今流行りのメイド喫茶とか!」 「え~っ、それだったら執事喫茶とかのがいいよー」 「Cafeは?」 ザワザワと、騒がしい教室内に一つの声が響いた。 発言者は、椿だった。 「Cafe?」 教壇上の鈴菜が、聞きかえす。 「そう、それも本格的な英国風Cafe! 内装も衣装も凝っちゃおうよ!!」 「Cafe……」 「……うん、いいんじゃない?」 「本格的ってところがウケるかも」 「衣装も可愛いの作ろうよっ!」 呼びかけるようにして、提案された言葉は瞬く間に教室内に広がった。 そうして、2-Eの出し物は【本格的な英国風Cafe】となったのだ。 「あれから、本当に大変だった……。お店の完成図を書き、それに合わせて衣装や小物類のレンタル、あとメニュー決めにそのメニュー内容の発注云々……。まぁ、そのほとんどは鈴菜しゃんの手腕と総司の人脈によって、完成したんだけど」 走馬灯のように今日までの準備期間を思い出し、優雅は感慨深げに呟いた。 その横で、椿も「本当よね……」としみじみと同意する。 「しっかし、あの大変さがあって 今こうして無事に店をOPENさせることが出来てるんやん! さっすが、ワイの総司やわーv」 いきなり後方から声がしたと同時に、優雅の背中に思いっきり重圧が圧し掛かる。 声の主は、晴貴だ。いつもは、ピョンピョンと外側にはねている髪の毛が 今日は女子達によって綺麗に整えられている。 「は、晴貴……重い」 「ハルちゃん、『ワイの総司』て……「誰が、お前のだ」」 椿の言葉を遮ったのは、言わずもがな総司だ。 心なしか、ぐったりとした面持ちで首もとを緩めている。しかし、お仕置きは容赦なく 彼の左手が晴貴の頭へと振り下ろされた。 「ぐわっ!!!……なんや~ぁ、痛っいやんか!『ベシッ』って!今『ベシッ』ってものごっつ良い音してもーたやんかっっ!!」 「それは、良かったな。健康な証拠だ」 「それ、嘘!絶対嘘っっ!!」 ぎゃいぎゃいと喚く晴貴に、それを軽くあしらう総司。 その仲は完全に、いや前よりももっと親しみを感じさせるようなものだった。 「総ちゃん、どこいってたの?」 さっきまで、姿を見かけなかった総司に、椿は問いかける。 「あぁ、悪いな……。何せこの格好だろ、馨が追いかけてきやがって……」 げんなりとした様子で、総司は近くの椅子に座り込む。そんな総司に、優雅は苦笑しつつ「お疲れ様―……」と、水を差し出す。 晴貴を纏わりつかせながら、総司は水を流し込んだ。 「あれ? そういや茜ちゃんは??」 辺りをキョロキョロ見渡して、親友がいないことに気がついた椿が尋ねる。 「さぁ?」 「そういや、見てないね?」 「どうせ、どっか見えないとこでつまみ食いでもしてんじゃねぇの?」 男性陣の関心のなさに、呆れつつも椿は、時計をみてため息をつく。 「もうすぐ、交替の時間なのに……」 「茜さんなら、宣伝に校内を廻ってますよ」 椿の疑問に答えたのは、クラス内の装いとは違って着物姿の浩也だった。 どうやら、今まで部活の方に顔を出していたらしい。 「校内廻り?」 オウム返しに繰り返したのは、椿。 「あの子に、接客をやらせるよりか、呼び込みをさせた方が確実性があるでしょう」 「鈴」 浩也の後ろから、鈴菜が顔を覗かせた。これで、茜以外のブラリスメンバーが揃ったことになる。 黙っていればの、美人・美形集団。そこにいるだけで空気が華やかになると謳われている通り、周囲の視線は彼らに集まっている。 しかし、気になる様子もなく彼らは飄々と話を続けている。 「もう休憩だろ? ついでに茜、回収してくるわ」 よっこいしょ……と、腰を重そうにあげつつ言った総司に対抗するかのように、晴貴も負けじと挙手しつつ叫ぶ。 「はいはいはーいっっ!! ワイも行く! 総司の行くとこ付いていく! 抜け駆けは許さんゾ☆★」 「お前は、馨属性か……」 ウインクつきで言われた言葉に、総司はげんなりして浩也の肩に寄りかかる。 そうして、小声で何か呟くといきなりダッシュして教室を出て行った。 慌てて、追いかけようと晴貴も走り出した瞬間、何かに躓いて転倒してしまう。 「ひたたた……。なんや、なんに引っかかったんやワイの足ッ……」 思いっきり打ち付けた鼻を手で押さえつつ、足元を見遣る。すると、そこには鞘に納められている刀が転がっていた。 「……ジローくん」 「おや、自分の刀がこんなところに。いつの間に落としてしまったのでしょうか?不思議ですねぇ」 あはは……、と能天気に笑いつつも どこか空々しい浩也に、晴貴は恨めしそうにじとーっと視線を投げつける。 「……はぁ、まあええわ。ワイが行かんでも、アイツが邪魔してくれるやろ」 晴貴の呟きは喧騒の中、誰の耳にも留まらず 風に掻き消えていった。 「ったく、アイツはどこまでいったんだ?」 晴貴と馨から逃げ切り、適当にブラブラしつつも視線は茜を探している。しかし、茜の姿は見つけられず、代わりに感じるのは 周囲の熱い視線ばかり。 それもその筈。総司の格好は、クラスの出し物である衣装のままだった上に 眼鏡をかけているのだ。 (っ流石に、視線がうぜぇなー……) 内心、舌打ちしつつも 表面には出さずに廊下を歩いていく。 時々、勇気を振り絞って「写真とってクダサイ!」と声をかけてくる女子に、愛想よく答えつつ総司は足を進めていった。 ≪イチ≫↑ ≪ララ≫↑ Last update 2007.4.24 ≪ブラウザでお戻り下さい≫ ※この小説は、3人で作ったリレー小説です。 順番:≪ララ(管理人)≫→≪イチ≫→≪千鶴≫ ここまで読んでくれてありがとうございます! |